甲子峠から国道289号線登山道区間【3】

公開日 2008年12月15日 探訪日 2008年9月14日
更新日 2009年1月31日 河之邊 浩

甲子林道の登り

国道289号線

森のトンネルの中を進んで行く。舗装路とは言え、路肩にはガードレールもなく、林道の雰囲気が十分に漂っている。こういう自然と同化した道をゆっくり登って行くのがすごく楽しい。

それは良いとして、遠くからだんだんと太鼓の音が聞こえてくる。こんな山奥でなぜ太鼓???

進むに連れてボリュームも大きくなり、近付いてきているようだ。かなり本格的なサウンドだ。

国道289号線

ちょうど足倉山の南西の麓、サウンドが最高のボリュームになった箇所で木の葉の隙間を覗いてみると、眼に飛び込んできたのは新道を新道たらしめる最大の土木構造物である甲子トンネルの下郷町側トンネルポータル、そしてそこで繰り広げられている和太鼓の演奏と多くの観客の姿だったのだ。

これには驚かされたが、分岐地点でまだ未開通のはずの新道に向かっていった大型バスや乗用車の謎がこれで解けた。甲子トンネル開通一週間前の祝賀イベントとして開催されているのだろう。

国道289号線

華やかな新道とは裏腹に閑散とした旧道を進んで行く。閑散とは言うものの何台かの乗用車とすれ違う程度の僅かな通行量はある。

しばらく進んで行くと、右手の草むらから蛇が出現。撮影しようとしたら気付かれたようで、激しいエスの字になり左手の斜面にさっさと潜り込んでしまった。山で蛇に出会う事は何度もあるが、こんな感じでいつも例外なく逃げていってしまう。人間のほうが恐ろしい存在なのであろう。

国道289号線

単調な直線状のゆったりとした勾配が続いていたが、きついカーブのつづら折れが現れてきた。地形図では1202mの標高点の南側直下、南東には「釜滝」を望むあたりのはずだが、南東側は草むらに隠れて良く見えない。

路面は甲子峠まで舗装路のように覚えているが、舗装が剥がれたのか地道が顔を覗かせる部分もある。

国道289号線

右カーブの外側は単なる人工のコンクリート製の堰なのだが、好ましい感じにウェザリングされ自然と同化しつつあるように見える。下部が自然の岩なので余計にそう感じるのかもしれない。北端ではあるが日光国立公園の範囲内ということもあるからか。

なおも周囲が緑に覆われた森の中を行くのが楽しい。路面は全面的にダートになるがフラットのままである。舗装されていても大きな穴が空いていたり、木の根で浮いていたりするような道に比べればはるかに走り易い。

国道289号線

国道289号線

つづら折れが一段落して空が開けてきた。やや右手前方の鞍部が甲子峠だっただろうか。進行右手には錆の出ていない真新しい白いガードレールが現れている。メンテナンスはされているようだ。

地形図を確認すると標高はやっと1100mを越えたところ。甲子峠がほぼ1400mなので、あと300m登る必要がある。林道でも登山道でも標高300mを稼ぐのにいつもだいたい1時間を見込んでいるので、甲子峠まであと1時間はかかるだろう。

国道289号線

左に大きく回り込むカーブ外側の角に林道甲子線起点の看板が木々の葉に埋もれていた。上部左右の角は落ち、全体的に錆に覆われてしまっている。起点位置は「下郷町大字南倉沢字堺峠8341地内」と読めるが、堺峠は地形図に記載がなく位置は不明である。

環境省日光国立公園 (那須甲子・塩原地区) 指定書及び公園計画書 (平成20年3月18日) によれば、甲子地区が日光国立公園に指定されたのが昭和25年、甲子林道が施行されたのがこの看板にあるように昭和32〜36年なので、自然公園法に基づき林道が開設されたものと考えられる。

国道289号線

沿線の斜面はなだらかで、石垣やガードレール等の人工物があまり目立たないのはそれが理由なのかもしれない。

左側の斜面では木が斜めに立っているのが印象的だ。直立した杉の人工林はそれ特有の整然とした美しさがあるが、このような広葉樹主体の自然林は地面の草木も旺盛で、植物を身近に感じることができる。

国道289号線

路面は舗装に戻っている。こういう道を走るのは、いや走るとは言っても登り坂なので早歩きほどの速度なのではあるが、本当に楽しいものだ。ゆっくりとじっくりと味わいながら歩を進める。

国道289号線

急なカーブを右に曲がったところ。短い直線状の部分だけ路面が少し浮き上がっていて色も白っぽい。砂利が覆っているし、路面も新しくはないので、この部分だけ再舗装したわけでもないだろう。なんだか不自然だ。

国道289号線

この欄干を見てやっと橋だと分かった。最初は橋かどうかも分からなかった。先ほどの写真も注意して良く見てみると進行右手にほんの少し欄干が写っている。

確かに地形的には谷を廻っているのだから、橋があってもおかしくはなかった。しかし一夏を過ぎて生い茂った草により橋さえも姿が隠されてしまっていたのだ。

新道分岐点から旧道に入ってすぐの柄沢を渡る橋と同じように、この橋の欄干もご覧のように一部が崩壊している。

国道289号線

橋を渡りコンスタントに進んで行く。すぐに道はつづら折れとなり、進行右側が山側となった。ここは植物の侵蝕を受けていなかったので石垣が見えているが、すぐ先はまた路面にまで張り出している。

国道289号線

路肩が草や泥に覆われているので普通乗用車がやっと1台通れる程度の幅員である。それでも退避所は何箇所かに設けられている。もし乗用車同士が出くわしたならどちらかが退避所までバック運転となるが、さぞ大変なことだろう。

国道289号線

つづら折れはまだ続いているがカーブの具合も勾配もなだらかだ。このカーブ外側の石垣も木の葉の影となり、すっかり目立たない。

国道289号線

やけに新しいカーブミラーだ。古い林道を訪れるとカーブミラーが凹んでいたり、曇っていたりすることが良くあるが、先ほどの真新しい白いガードレールと同様、メンテナンスの手が良く行き届いている。しかし残念なことに草に覆われてしまっていて、本来の役目はあまり果たしていそうにない。

国道289号線

そして落石注意の警戒標識。標識の設置場所から路上まで植物に覆われている。奥には石垣も見えるが、路上に張り出した草により、やはりあまり目立たない。

国道289号線

やっと頭上が開けてきた。奥の鞍部が甲子峠で間違いない。時刻は13時40分、会津下郷を出発してから3時間以上も経過している。

今日は旧道に寄り道したり写真の撮り過ぎで度を越して遅過ぎではないだろうか、これから行く登山道区間を無事に越えられるだろうかと、不安な気分も芽生えてくる。

これまでの経験から峠が見えてからがまた長いということは良く認識している。

国道289号線

ここ数年間のうちに再舗装されたのであろうか、路面の舗装が新しい。

しかしまた豪勢に退避所の標識が草に食われている。国立公園内であるから道路管理者も安易に草刈りできないということか。

国道289号線

このあたり林道の中盤にかけて退避所が頻繁に設置されている。こちらの標識もやはり草に食われている。先ほどは左側に退避スペースがあったが、今度は右側に退避スペースがある。どちらも草に隠れていて、写真撮影位置からだと退避スペースそのものは良く見えない。

国道289号線

新しい舗装は途切れ、ダートになる。雲で日陰になってはいるが、右上にちらりと見える山頂はこれから行く登山道国道が付いている稜線だろうか。

国道289号線

そう、これだ。思い出した。これが甲子峠への道だったんだ。この西洋のお城を思わせる特徴のある道路構造物。懐かしさでいっぱいだ。またここにやってきたという実感が湧く。でも左側の斜面が人工的な平行四辺形に削り取られているのに少しがっかりした。

右に見える山頂であるが、ここまでくれば明確である。紛れもなくこれから行く登山道国道が設けられている山である。仮に甲子第1ピークと名付けよう。甲子第1ピークにはあまり高い木は繁っていないようなので展望は期待できそうだ。

国道289号線

平行四辺形に削り取られた斜面がここである。正面に見える山は甲子第1ピークに続く、もうひとつのピークである。これを仮に甲子第2ピークと名付けよう。甲子第2ピークは甲子第1ピークとは異なり全体的に木が繁っているようだ。

これら2箇所が今回のコースでの最高所なのである。甲子峠からの登山道の登りに備えて体力を温存するため、ダートで坂がきついところは無理に乗車せず押していくことにした。乗車して完走とかそういうことはもうどうでも良い。いかに楽をして早く到着できるかが重要だ。手を抜くならぬ足を抜くところ。

国道289号線

ダートで押しているところをオフロードのオートバイに抜かれたと思ったら、すぐにまた新しい舗装路になったので乗車して行く。

こちらはこれから行く甲子山方面とは逆の大白森山方面の景色だ。峠直下の最後のつづら折れで180度進行方向を変えながら登り詰めて行く。

右に曲がり、

国道289号線

左に曲がる。このあたり路肩の草には勢いがなく、両側ともに白い排水溝が見えている。

国道289号線

前方に「西洋のお城」の一部である上部構造物が見えてきた。今まさにこの「西洋のお城」に登り着くところである。でも実体はただの沿石?

いや、それとも何か素晴らしいものがあるのだろうか?

国道289号線

「西洋のお城」の上から、ここまで来た道を展望する。ここまでは草木が生い茂り展望は良くなかったが、ここだけは足元も含めて素晴らしい展望だ。

いつものことであるが、良くこれだけ登ってきたと思う。だいぶお腹も減ってきた。とりあえずマカダミアナッツ入りのチョコレートで凌いでおく。

国道289号線

最後の登り坂に力を振り絞ろう。甲子峠まで残りあと300mぐらいのはずだ。

次へ


Copyright © 1994-2009 Koh Kawanobe <www@morinohiroba.jp> All Rights Reserved.